内海夏子『ドキュメント女子割礼』

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読みました。第1章の痛みと恐怖の描写がすごいです。こんなに読むのが苦痛な本は初めてでした。あまりにも読むのが辛くて、しばらく放ってありました。

ルワンダ大虐殺を扱っている『ジェノサイドの丘』は酷い暴力を描いていて、村を襲うのに昼間に一通り殺し終わらないときは、鉈でアキレス腱を切って逃げられないようにしてから、うめき声の中焚き火を囲んで朝までビールで酔っ払い続ける、とかそういう話が出てきたりするんですが、それはでも地獄のような光景を遠くから幻覚のように眺めているような感じに(ある程度意図して)描かれていて、恐怖には触れているけれど痛みにはそれほど踏み込んでいない。それで、上巻はけっこう「面白く」読めていた気がします*1

痛い話を書けばいいってものではないでしょうけれど、読んでいてずっと不快だったのはこの『ドキュメント女子割礼』のほうでした。暴力を面白く描くには痛みにあまり踏み込んではいけないのだ、と思いました。「ジャンプ」なんかを見てると、1冊に掲載されてる漫画の半分くらいに身体の一部が切り離されるような暴力描写があったりするんですが、痛みはさらっと流される傾向がある気がします。アクションの面白さを見せるには傷みは邪魔になるのかもしれませんけれど、やはり暴力を描く責任として、ちゃんと痛いことは痛いように描くべきではないのかと思います。

あとは地元の伝統と外からの圧力の問題が扱われていて、日本だと最近話題になっていたイルカ漁とかですね。この割礼の問題をどんどん薄めていったところに、クジラとかイルカの問題があるんだと思いました。周りの人にすんげー嫌な思いをさせてまで、自分のスタイルを貫く人ってどうなのかしら、っていう。伝統ということだけに限って言うなら、別に正確に同じスタイルを死守る必要なんかなくて、今までもずっと他人との関係の中で変化して来たのだろうし、適当に変化させていけばいいんじゃないかと思います。せっかく生きてるイルカを死なせるよりは、年間70万頭とか無駄に殺してる犬猫の合挽き肉で代替してみるとかね!(皮肉)

*1:下巻は灰色の後始末編なのであまり「面白く」はないです。まだ1/3くらい残ってます……。