夕凪の街 桜の国

こうの史代夕凪の街 桜の国』でたくさん人が来るので、もうちょっと内容のあることを書きます。


物語が素晴らしいのはもちろん、一度読んだだけではとても把握しきれない程の情報量に圧倒される漫画でした。絵柄が淡白なので、最初に読んだ時は、想像していたよりずいぶんあっさりとした話だなあ、と思ったのですが、読めば読むほど丁寧に緻密に描かれているのがわかります。

例えば、これはネタバレにもならないと思うんですが、冒頭の2コマ目の隅に小さく「30年度7月分」と書かれた帳簿が置いてあります。

■■■以下からちょっとだけネタバレ■■■

10ページ目では、弟の旭から届いた葉書きの消印から、これが昭和30年の7月7日、七夕の日だとわかる。だとすると、その日の夜の雨にも意味がこめられているに違いありません。

あるいは、日付でいうと、桜の国(ニ)で桜の国(一)が1987年の出来事だとわかるのですが、(一)の冒頭の連絡帳に見えている(4月)7日は、確かに火曜日なんですね。(一)には、これが何年の話なのかはどこにも描かれてないのに。

あと、ちょっと気になったのは、「桜の国」では鍵が重要な小道具なんですが、3ヶ月か4ヵ月の間に七波の鍵が変わっている(ように見える)。引越しをするのは、その年の秋のことなので、まだその時点では同じ中野区のアパートに住んでいるはず。七波は「野球をたしなむ」活発な女の子なので、もしかしたらどこかに落としたのかもしれない。あるいは、何か気づいていないストーリー上の必然性があるのかも……。

■■■ネタバレおしまい■■■

……という具合で、目を皿のようにしてヒトコマヒトコマ見てしまう作品でした。細部から意味が重層的に立ち上がってくるような。

ただのにっきさんのところで、こまかい解説がされています(もったいなくて、まだちゃんと見てないんですけど)。
http://sho.tdiary.net/20041109.html